アイルランド系移民

   

   今日アイルランドからの移民の数は全世界に約7000万人いるといわれています。1840年後半

から1850年前半に多くの200万人以上(当時の人口の四分の一)のアイルランド人がアメリカに移住

しました。1900年にはその数は2倍の400万人になっていました(要するに約半分がアメリカに移住した

わけです)。その当時の意味の悲話のひとつが映画にもなった”タイタニック”です。現在、アイルラン

ド系アメリカ人はアメリカの総人口の18%にあたり、4000万人になりました。

 

 もちろん、人々ははアメリカだけでなくカナダ、オーストラリア、ニュージランドなどにも移住しまし

た。最終的にはアイルランドに残った人たちは200万人(四分の一)くらいになってしまったそうで

す。

  誰でも故郷を去るのは淋しいことです。しかもアイルランド人は、移民後もカトリックを信仰しつ

づけたので白人でありながら"White Ethnic"といわれ差別されていたそうです。おそらく白人であり

ながら差別を受けたことがあるのは彼らくらいではないでしょうか?これは決して、宗教上の問題だけ

ではないようです。アメリカはピューリタン革命により、理想郷とみなされ作られた国です。

我々、特に日本人には理解しづらいことですが(私だけ?)、ヨーロッパには昔から「祖先はギリシャ・

ローマ系である」ことがよしとされ、優位に考えられるようです。これはいまだにヨーロッパ諸国で見ら

れます。その証拠に、移民の玄関であったボストンには「ファーザー(祖先)」と呼ばれる像があり、

そこには「ギリシャ・ローマ人ここにきたる」と彫られています。日本人は世界史の舞台の外に長い間い

ましたから、なかなか理解しがたい発想でしょう。しかし、アジアでも「漢民族は優れているという」

思想があったように思います。日本人にもおそらく似たようなものはあったかと思います。だからこそ、

純血性を守るべく鎖国したり他の文化・文明を排斥するということが江戸時代に起きたのではないで

しょうか?もし(歴史に「もし」はないといわれますが・・)日本がヨーロッパに位置していたら同じよ

うなことを思ったのかもしれません。

 

 実際にはヨーロッパ人はさまざまな血が混じり合っています。アイルランド人はギリシャ・ローマ

系ではなくご存知のとおりケルトが祖先です(本当はケルト以前の原住民がいたようですがケル

トに滅ぼされてしまったらしい・・)。今でこそ,ケルト芸術、音楽また文化は有名になり、もてはや

されるようになりました。「ケルト」という言葉に幻想的なイメージが持たれさえするようになりまし

た。本来ケルトの民は先に記したとおり、アイルランドの原住民ではなく、中央ヨーロッパから颯

爽と現れ、忽然と消えたといわれています。当時の文明の中心ギリシャ・ヨーロッパではケルト

人は好戦的で野蛮人とみなされていたようです。今日我々が見ることのできる遺物からは偉大

で繊細なな芸術家のようにも見えます。ケルトはかのシーザーとも戦い、あちらこちらへ移動して

いきました。当時の人からすれば神出鬼没で、恐ろしく感じられたのでしょう。ケルトは本来あま

り、連帯感がなく個別の行動が多かったことが滅ぼされた原因のようです。そんな彼らが築いた

王国が”ガラテヤ王国”で新約聖書に見られます。また、シーザーの書いた「ガリヤ戦記」はこの

ケルトとの戦いを書いたものです。

 

 ほぼ同時期のアジアに同じような集団が存在しました。それは匈奴です。彼らは騎馬民族で

強く神出鬼没であり、怖いもの知らずだった秦の始皇帝すら万里の長城を築き、彼らに備えまし

た。当時の表舞台で猛威をふるっていながら、ケルトは森の中で、匈奴は草原で忽然と姿を消し

てしまいます。その辺が神秘性を感じさせる所以でもあるようです。消えたといっても歴史舞台

から消えただけで、実際にはケルトはGaels(スコットランド)、Welsh(ウェールズ)、Breton(フラ

ンス南部)そしてアイルランドに残りました。その中でもアイルランドはケルトの地が最も濃く残っ

ているといわれています。しかし、それゆえにアイルランド人は移民後も差別を受けるようになっ

てしまったわけです。

 

  20世紀まで、アイルランド人は彼らの才能や能力を見せることができませんでした。しかし、

今日アイルランド系またはアイルランド人から多くのすばらしい才能を持った世界的に有名な人が排出さ

れています。

 

有名なアイルランド系の人々・・・

大統領

J.F.Kennedy(いわずとしれたケネディ元大統領)(The 35th American President), Richard M. Nixon(同様にニクソン元大統領)( The 37th American President ), William J Clinton(またまた、クリントン元大統領)( The 42nd American President ), Ronald W. Reagan(レーガン元大統領)( The 40th American President )

ケネディ大統領が当選したとき、イギリス人は「あのアイリッシュがアメリカに行くと大統領になれるのか・・・」と言った人たちもいたそうです。一時は、公務員や法律家にはなれない時代がありましたからね。アメリカではアイルランド系の人が消防士や警察官に多いそうです(確かにさまざまな映画で見かけますね。バックドラフトもアイリッシュアメリカンのお話らしいです)

音楽関係

John Lennon(ジョンレノン), Paul McCartney(ポールマッカートニー), I'm not sure about ... RIngo Starr & Gorge Harrison(リンゴとジョージについては明確ではないです)( The Beatles )

Mariah Carey(マライアキャリー・お母さんがアイリッシュアメリカンというのは有名)

文学関係

Lafcadio Hearn(ラフカディオ・ハーン/小泉八雲), Margaret Mitchell (マーガレット・ミッチェル)

俳優・女優関係

Grace Kerry (グレースケリー・元モナコ王妃), Harrison Ford (ハリソン・フォード), Robert De Niro (ロバートデニーロ・イタリアンアメリカンとしてのほうが有名ですが実際はアイリッシュの血筋のほうが濃いらしい ), Kevin Kline (ケビンクライン)などなど・・・

私が思うのにメルギブソンもそうではないかと思います。名前といい、監督作品といい。あと、

リーアムニーソンは、ばりばりアイルランド人ですよね。ジョントラボルタもそうらしいです。。

「風とともに去りぬ」をみたことがあれば、「タラ」という名前に聞き覚えがありますよね?有名な

最後のシーンでスカーレットは立ち上がり、言います。「そうだ、私にはタラがある。タラに帰って

考えよう・・・」。映画の中ではタラはアメリカの土地の名前です。しかし、よく内容をみてみるとア

イルランドとの深いかかわりあいがわかります。それはタラもそうですし、土地というものに対し

てもそうです。

  まず、「土地」に対する異常なまでのスカーレットの執着・・これは長年(700年)アイルランド

人は自分の土地がもてなかったことにあります。しかも、アメリカの土地はアイルランドの不毛な

土地とは違い農作物の育ちやすい良い土地です。飢饉を乗り越え、海を渡ってきた彼らにとって

土地がどれほど大事なものだったでしょうか?やっと手にした土地につけた名前が「タラ」です。

「タラ」とはアイルランドの重要な場所に由来しています。映画の中のタラの風景はアイルランド

のタラによく似せてセットが作られたそうです。

アイルランドの歴史に「タラ」が登場するのはアイルランドの王様だったCormac McArt が君臨

した場所であり、古代神聖な場所でした。現在もその土地信仰は残っており「タラ」は神聖な場

所としてみなされています。また、1798年独立運動の提唱者でカトリックを解放しようとしていた

ダニエル・オコンネルがこの場所で国民の3/4が集まったといわれる「モンスター集会」と呼ばれる

集会を行いました。



「タラ」という言葉は映画を通し「アイルランドでの苦難を忘れるな。いつでもアイリッシュスピリット

をもて。」と語っているように思えます。ぜひ、もう一度「風とともに去りぬ」をみてみてください。

驚くくらいアイルランド精神の固まりのような映画ですよ。

 

 

 

 

 



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